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突然のアタリ

 久々に小説を読みたい気分になって、紀伊国屋書店をうろついていた。
 そこは本の海である。ありとあらゆる書物が、すきあらば深海へ引きずり込もうと、大波小波を立てている。そんな場所だから、ただ「小説が読みたい」というだけの検索項目で、何かいい本に巡りあうことは不可能に等しい。

 ふと思い立って、こういう時は、信用のおける人のお勧めに従うのが一番だから、須賀さんにお願いしようと、外国文学の棚に行く。そして、須賀敦子訳の小説を探すと、はじめに見つかったのが、アントニオ・タブッキの『供述によるとペレイラは…』(須賀敦子訳、白水Uブックス、2000)であった。

 開いてみると、生と死の問題とか、1938年とか、ポルトガルとかファシストといった文字が見え、ぼくの興味の範疇ではないとその時は思ったが、他に食指の動くものもなく、須賀さんなら大丈夫という絶対の自信もあったから、その本買って電車の中で読み始めた。

 読み始めてすぐに、これは当たりだ、と思った。ポルトガルの『リスボア』という新聞の文芸担当者ペレイラが、作家の死亡記事を書く書き手を一人募ろうとして、ある雑誌に論文を載せていたロッシというイタリア系の青年にコンタクトをするところから話は始まる。

 青年はマルタという赤毛の女の子を愛していて、彼女が実は政治運動の活動家で、知らない間にペレイラもロッシを通じて政治的な活動へ入りこんでしまう、という筋書きを、そのまま書いただけでは全く面白くないだろう。

 ペレイラがロッシの悲惨な最期を目撃する最後の場面まで、何がどうということはない話の連続で、構成されている。ところが、この一見何ということもない話が、無類に面白いのである。

 たとえばヘンリー・ジェイムズの『アスパンの恋文』(行方昭夫訳、岩波文庫、1998)とか、またはジェイン・オースチンの作品とかのように、とりわけ何かの事件が起こるわけでもないのに、読み出したらやめられない、という作品がぼくは好きなのだ。

 そして、ペレイラに別れを告げたぼくは、須賀さんのガイドでタブッキの後を追いかけ始めている。『遠い水平線』は難解だったが、『インド夜想曲』は「予感」がする。しばらく文字を読む楽しさに浸れそうである。

           風海

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