« 泣きの一ヶ月 | トップページ | トポス(場)からの離陸 その① »

久木の森

 昨日、A・シマノフ氏と大阪梅田にあるYアートギャラリーに絵を見に行った。
 久木朋子さんの、「ことのはのもり」シリーズである。

 彼女の絵と出会ったのは、去年のこと。一目見て惚れ込み、生まれて初めて絵を買った。その時は「鳥の時間~オオルリ~」(ハガキサイズ)で、今回は本を売ったお金を懐にしていたので、ちょっとぜいたくに少し大きめの「伊波瀬の社の呼子鳥」(20×20センチ)。このたび彼女は、万葉集ゆかりの場所をおとづれ、歌ををタイトルとして連作のシリーズを作っているのである。

 展覧会などの詳細は久木さんのホームページ(http://www.geocities.jp/ktkyuki/information.html
Yアートギャラリーのホームページ
http://www.yart-gallery.co.jp/contact.html
をご覧いただくとして、彼女の作品についてぼくの感じたことを書いてみたい。

「伊波瀬の社の呼子鳥」というタイトルの由来は、『万葉集』八巻の1419、鏡王女(かがみのおおきみ)春の雑歌の、

神名備の磐瀬の社(もり)の呼子鳥 いたくな鳴きそ わが恋まさる

 というものである。呼子鳥とはカッコウのことらしい。作者の鏡王女は近江の鏡山の司祭である鏡王の娘で、額田女王の姉という。はじめ天智天皇に寵愛され、のち藤原鎌足の正室となった。鎌足の病気平癒を祈願して、興福寺を開基したという。「いわせのもり」は龍田地方にあった森といわれるが詳細は未詳である(中西進編『万葉集事典』講談社文庫、1985 桜井満訳注『万葉集』旺文社、1988)。

 この絵は臙脂オレンジを基調とした配色で、画面いっぱいに俯瞰的に木々が描かれ、その上を大きなカッコウが飛んでいる。そのカッコウが白ぬきになっていて、中に蔓草のような模様が描きこまれているという、実に幻想的な作品である。今にもカッコウの声が春の夕暮れを染めるようである。
 久木さんは自然派(アウトドアが大好きという意味)の画家で、抽象に近いデザイン的な作風なのだが、中に描かれている鳥や植物は驚くほど正確である。

 また、この作品に限らず、久木さんの作品は共感覚を呼び起こすものが多い。絵を眺めているといつしか鳥の声を聞いており、風の匂い、陽光の肌触りを覚えるのである。そして、山歩きを趣味としておられるだけあって、山の雰囲気を実によくとらえていると思う。本人が本当に楽しんでいないと、こうはならないだろう。

 このたびの「ことのはのもり」の連作や、大作「かむなびの杜」など、ここ最近の作品は神あるいはサムシンググレートといった存在を意識されている(いないかもしれない)のではないかと思う。顕在意識には浮かび上がっていなくても、そうした方向性が開かれていることは確かであり、これはぼくたち「宇文研」の近年の問題関心である「巡礼」にもつながるものだろう。

 久木さんは山野を歩くことで神に触れているに違いない。それは作品が証明している。疑う人は「かむなびの杜」を見よ。

      風海しるす

|
|

« 泣きの一ヶ月 | トップページ | トポス(場)からの離陸 その① »

宇則齋志林」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1321750/33818066

この記事へのトラックバック一覧です: 久木の森:

« 泣きの一ヶ月 | トップページ | トポス(場)からの離陸 その① »